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by crax_alexey

カテゴリ:読書( 32 )

ゾンビvs少林拳という話

「高慢と偏見とゾンビ」(ジェイン・オースティン&セス・グレアム・スミス、二見文庫)読了。

 クソ面白かった。この作者頭おかしいんじゃないのと思えるほどに。

 イギリス古典文学「高慢と偏見」にゾンビを放り込んだという本当にタイトル通りの話で、この発想をする時点で十分に頭がおかしいと言い切れるが、さらに「イギリス上流階級人は、ゾンビと戦うために皆少林拳を会得している」という設定を付け加えているおかげで決定的にどうかしている。時折その戦闘能力がゾンビ以外にも発揮されたり……というかなんでもかんでも暴力で片付けすぎだろ英国紳士。組み合わせが絶妙すぎる。

 全米百万部の大ヒット作らしい。納得できる。
 ゾンビは何とでも混ぜられるから卑怯じゃのう。しかしここまでイカれた話を書くのは結構なセンスが要求されるのだろうとも思う。俺も「レ・ミゼラブルとゾンビ」とか書いてみたいわ。無敵超人ジャン・バルジャンがパリの下水道に潜むゾンビどもをちぎっては投げる話。

 存分に楽しめたので、原点である「高慢と偏見」も読まねばならん。読んでないんです。
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by crax_alexey | 2010-02-15 21:25 | 読書

年末年始に読んだ本の話

「殺す者と殺される者」(ヘレン・マクロイ、創元推理文庫)読了。
 50年ぶりの新訳復刊作品。こんなに面白いのになんで50年間絶版だったのか。長生きはするものね。
 マクロイのシリーズキャラクター、ウィリング博士は出てこない単発作品。そのためか、終盤あたりで出てくる超展開に驚愕した。なんという反則技、と思ったがしかしよくできている。全編を貫く奇妙な違和感と不安感、最後の新聞記事の不気味な描写など、ニューロティックスリラーと呼ぶにふさわしい。細かいことを言い出すとネタバレにならざるを得ないので、突っ込んだ感想を書けないのがやや残念。

「造物主の掟」(J・P・ホーガン、創元SF文庫)読了。
 課題図書につき十数年ぶりに読み直した。前読んだとき同様に超おもしろかったという感想は不動だが、一点気づいたことがある。筋立てがこの間見た映画アバターにそっくりだ! この筋立ては「先進文明が後進文明ととのコンタクトを行う」という類型の物語における鉄板テンプレなんですかね。話の展開に驚くことは少ないが、安定して面白い。ベタなのは悪いことじゃないさ。
 やっぱり傑作だと思う。ザンベンドルフ先生はやはり心の師匠の一人だ。彼の主張が全く古びてないのは驚きである。

 去年はあまり本を読めなかった。読書量を増やしていきたいね。
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by crax_alexey | 2010-01-03 15:55 | 読書
「犬の力」(ドン・ウィンズロウ、角川文庫)読了。
 ラテンアメリカの麻薬組織の壊滅を志す男アートと、麻薬組織のリーダーとなる男アダンの30年にわたる戦いの物語。
 超大作だった。このミス1位も納得できる。ほんと面白かったよ。ウィンズロウ先生はハズレがないなあ。といっても俺、読んだことあるのボビーZとカリフォルニアの炎だけだけど。

 ラテンアメリカ舞台で犯罪を扱う小説の例に漏れず、残虐行為満載の底抜け感あふれるバイオレンス小説だった。世界最先端の文明国家たるアメリカの近所でありながら、なんでラテンアメリカってこんなムチャクチャなんだろうと思うのだが、海外に行ったとのない俺には及びもつかない様々な事情があるのだろうなあ。ま、ラテンアメリカに行くまでもなく、アメリカ南部舞台の小説もかなりムチャクチャ感に溢れてはいるけど。

 残虐行為の描写についてはそれなりに読み慣れているつもりだが、麻薬組織同士の抗争で敵組織のボスの子供を谷底に落とすところと、「バナナの皮剥き」はかなりキたぞ。バナナの皮剥きをされたのは子供を谷に落とした奴なので因果応報と言えばそれまでだけど、「そこまでしなくても……」と素で思った。この世にバナナの皮剥きをされるために生まれてきた人なんていないのよ! あばばばば
 この衝撃を何らかの形で自著に反映させてみたいものである。
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by crax_alexey | 2009-12-24 19:45 | 読書
「愚者が出てくる、城塞が見える」(J・P・マンシェット、光文社古典新訳文庫)読了。
 金持ちの甥っ子の世話役として採用され、精神病院から出てきたジュリー。ところが彼女を待っていたのはいきなりの誘拐事件だった。甥っ子と一緒にさらわれたジュリーはなんとか誘拐団の手から脱出したが、誘拐団も黙ってはいない。かくして残虐行為てんこ盛りの逃亡アンド追跡劇が始まった、という話。

 えーと、この本がセリ・ノワールというレーベルから出たことでノワールというジャンル名が確定したという理解でいいんですよね。いやー、クソ面白かった。正しくノワール。夕叢霧香なみに真のノワール。ノワールと銘打った作品を読んで「これをノワールにカテゴライズしていいんじゃろか」と迷うことが結構多いのだが、これはノワール中のノワールと言い切れる。カラマーゾフとかいった文学作品を出しているというイメージが強い光文社古典新訳文庫が、なんでこんな残虐行為博覧会的な作品を出したのか不思議に思える。

 ノワールの定義ってなんだろうなあ、と常々迷うところがあったのだが、これを読んでとりあえず一定の見識を見出したような気がするね。

 ジュリーの残虐行為は「そこまでする必要はないだろう」と思えるが、同時に「でもついうっかりここまでやっちゃうよねー」とも思える。必然性はないが、蓋然性はあって、そこのところに共感してしまう。不思議なことに。この感覚はなんじゃろか、と考えてみると、ジュリーの行動はあくまでも自己防衛本能に基づいたものであるということが肝要ではないのだろうか、という気がしてきた。よく考えれば「ポップ1280」の主人公も、自己の立場を守るのに汲々としていた奴ではなかったか。「ダーティーホワイトボーイズ」のラマーも、自分のケツ穴を守るために人殺しをして、結果脱獄珍道中を始めたのではなかったか。

 と思索を進めてみると、「自己防衛本能の発露」というキーワードはノワールというジャンルにとって結構重要な部分を占めているのではないかと思えてくる。なんらかの外敵原因によって根源的、動物的本能を呼び起こされた人間が、獣性を発揮する。文明社会の中にあっても人の心の内には獣性が潜んでおり、それは特定の人間にだけではなくすべての人間が持ち合わせている暗黒の部分である。その暗黒を白日のもとにさらけ出すのがノワール小説なのではないだろうか。

 最終的な定義とは言わないが、一つの意見を得られたような気がするね。ほんと、ノワールって俺にとって謎なジャンルなのよ。わけがわからないのにやたらとクソ面白い、っていうね。うまいこと自分の著作に活かしてみたいものだ。
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by crax_alexey | 2009-12-14 18:26 | 読書

QBの背中を守る人の話

「ブラインド・サイド」(マイケル・ルイス、ランダムハウス講談社)読了。

 極貧ながら天性の運動神経と恵まれた体格を持つ黒人少年マイケル・オアが、白人夫婦に拾われて成長し、NFL一巡目で指名されるほどのプレイヤーに大成するというノンフィクション。
 おもしろかった。環境に恵まれない少年が家族愛によって救われる、という話はありがちといえばありがちだが、実話ってのがびっくりだ。アメリカの格差社会って底が抜けてるな。
 そしてこの主人公が順当に今年一巡指名を受け、たった今レイヴンズで活躍しているのも驚きだ。原書が出たの2006年なんですけどね。

 マイケルはオフェンス側のレフトタックルをポジションとするのだが、このレフトタックルというポジションがいかに重要であるかという点についてもかなりの紙幅が裂かれている。NFLにおける戦術トレンドの変化がレフトタックルの価値を高騰させた、という歴史の流れはおおいに納得できた。プレイヤーの年俸平均を比べてみると、レフトタックルのほうがライトタックルより平均値がはるかに高いんですって。へー。
 アメフトについてこれだけテクニカルな文章読むのは初めてだが、クソ面白かった。アメフト技術論、歴史論はもっと読みたいね。和書に存在するのかどうか怪しいが。
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by crax_alexey | 2009-12-02 19:21 | 読書

象とロバの百年戦争の話

「選挙のパラドクス」(ウィリアム・パウンドストーン、青土社)読了。
 投票システムに関する科学書。
 一人一票、というきわめて平等に見えるシステムが引き起こす不平等を、現代アメリカで実際に起きた例を引き合いに出して語る第一部、では一人一票に変わるシステムは存在するのか、という疑問を論じるのが第二部、そしてそのシステムは現実に採用されうるのか、と提言するのが第三部、という三部構成。
 おもしろいわー。パウンドストーンの名前で衝動買いしたようなものだったが、当たりだった。一人一票ってシステムは猛烈に不平等なんですねー、と大いに納得させられた。

 一人一票というシステムが持つ致命的な欠陥は票割れを引き起こすことだ、とこの本は論じる。近年で有名なのは2000年大統領選だ。ブッシュとゴアの激戦となった選挙戦の勝敗を決定付けたのは、緑の党から出馬していたラルフ・ネーダーの存在である。この人物の政策がゴアよりだったため、ゴアに投票されるかもしれなかった票を大いに食った。ゆえにゴアは僅差で負けた。ネーダーがいなければゴアが勝っていただろう、というのが定説らしい。

 有力候補の票を食う存在――これをスポッターという――が大統領選の結果を左右する、という例は以前にも何度か発生しているとのこと。かのリンカーンもそれで当選したとか。奴隷制堅持を訴える他候補三人の間で票が割れたが、奴隷制について特に何も言わなかったリンカーンは、奴隷解放派の票を集めることができたのである。まあ、その結果としてアメリカは凄惨な内戦に突入するのだが。

 2004年の大統領選において、ネーダーは再び出馬しようとしたが、緑の党の指名を受けることはできなかった。投票用紙に名前を載せてもらうには各州で一定数の署名を集めて提出することが必要であり、小党のバックアップすら持たないネーダーにとっては厳しい状況だった。
 が、ここで、共和党がネーダーのために署名を集めるという活動を始めたのである。ネーダーが候補となることで、再び民主党の票は食われる、と見込んでのことだ。一方でそれを防ぐべく、民主党もネーダーを候補者からはじくための活動を行い始めた。

 結果としてブッシュは圧勝、ネーダーによる票割れを促す必要はなかったのだが、「有力候補が当選の確率を高めるために、ライバルであるはずの泡沫候補を支援する」という戦術がアメリカ全土に知れ渡ることとなり、ちょっとしたパラダイムシフトを引き起こした。それ以降、ある陣営が別陣営を支援して、スポッターを生むという戦術が一般的になってしまったらしい。

 アメリカすげえ。スポッター戦術の道義的是非はおいといて、そんな戦略を生みだして実行しちゃうアメリカ人はすごすぎる。門川大作が自分の当選のために村山祥栄を支援するようなものよ?(京都市民にだけわかるたとえ)

 そんな奇妙な事態を防ぐため、この本は範囲投票なるシステムを提案している。アマゾンユーザーが商品に星をつけるがごとく、各候補について採点して、その合計をもって得票とする方法が、現在考えられているうちでは一番よい方法とのこと。なるほどねえ。
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by crax_alexey | 2009-08-09 11:33 | 読書

読んだ本

「ぼくと1ルピーの神様」 (ヴィカス・スカラップ、ランダムハウス講談社文庫)読了。
 映画スラムドッグ$ミリオネア原作。
 学もない最下層出身のウェイター、ラムがミリオネアに出て全問正解し、莫大な賞金を手に入れた……というのが導入部。ラムがどうやってテレビ局スタッフを出し抜きすべての答えを知りえたか――という話になるかと思ったらまったく違った。
 まあ、「神は常に人の営みを見ており、人に恥じぬよう生きていればいつか善果は降ってくる」というメッセージのこもった勧善懲悪話と解するべきなのだろう。その割にはラム君、困ったときはすごい勢いで不法手段に訴えたがるけどな。容赦なく襲ってくる理不尽な暴力に対抗するには法などクソくらえということか。
 今のインドを切り取った小説、というのは珍しいので、そのあたりは面白かった。少なくとも都市部では、カースト制度は有名無実化しているらしい。
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by crax_alexey | 2009-06-22 13:02 | 読書

帰省中に読んだ本の話

「レインボーズ・エンド」(ヴァーナー・ヴィンジ、創元SF文庫)読了。
 超簡単に言ってしまうと電脳コイルのメガネをコンタクトに変えた話。すごい地に足の着いた近未来もので、出てくるテクノロジーは今の我々の延長線上に出てきそうなものばかり。その辺は非常に面白い。作中で起きる表面上のイベントの裏で何が起きていたのか微妙に良くわからんところが難だが、まあおじいちゃんの再生話と考えれば十分か。
 ちなみに表題レインボーズ・エンドとは作中に出てくる老人ホームの名。老人ホームにエンドとかつけちゃうあたりは男らしいと言わざるを得ない。

「ユダヤ警官同盟」(マイケル・シェイボン、新潮文庫)読了。
 歴史改変ものではあるが、ハードボイルドものだよな。SFとは言い難い気がするんだが、これがヒューゴーネビュラを取るというのはよくわからん。内容の出来的にではなくジャンル的に。ユダヤネタはそれほどまでにアメリカでは重大ということなのか。でもプリーストの「双生児」でもユダヤ人移住計画ネタは出てきたしな。あっちはたしかマダガスカルに約束の地を作るとかいう話だったと思うけど。
 ハードボイルドものとしては普通に面白い。文章が過剰なような気はするが、これはこれで。面白いことを言おうとして比喩が複雑になった結果面白いのか面白くないのかよくわからないという言い回しがいいんです。
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by crax_alexey | 2009-05-28 20:33 | 読書
「車輪の下で」(ヘルマン・ヘッセ、光文社古典新訳文庫)読了。

 身につまされるイヤな話だった……。社会というレールを走る車輪の上に乗れなかった人間は車輪の下で踏み潰されるよりない、という状況は現代でもあまり変わっていない。というか百年前に既にこんな話がものされていたという事実に驚愕するぜ。やっぱり古典ってやつは、長い時を生き延びるだけの内容を持っているなあと改めて思った。

 作中に出てくる珍しい言い回しがそのままタイトルになる、というのは結構好き。「蛇の形」とか「曲がった蝶番」とか。


「宇宙創成」(サイモン・シン、新潮文庫)読了。

「フェルマーの最終定理」「暗号解読」に続く第三弾。今度はビッグバン理論をテーマにとっているが、この書が他の解説書と一線を画しているのは、単にビッグバン理論を説明するのではなく、どのような考察、研究、実証を経て人類はビッグバン理論にたどり着いたか、というその過程を紀元前の時点から時系列に並べ、その概略を巨視的に描きだしているという点にある。「暗号解読」でも使われていた手法だが、本当に面白いわ。赤方偏移の検出の仕方とか初めて知ったよ。万人にお勧め。

 あと、ティコ・ブラーエは決闘で鼻を無くしたので義鼻をつけていたということも初めて知った。膀胱爆発でお亡くなりになったりとか、色々大変な人生を歩んでいたんですね。
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by crax_alexey | 2009-01-29 21:35 | 読書
「タンゴステップ」(ヘニング・マンケル、創元推理文庫)読了。
 この人の作品は「リガの犬たち」しか読んでないけれども、安定した面白さがあるので他の作品も読まなきゃなあとは思う。
 惨殺された死者は何故死の寸前タンゴステップを踏まされたのか、というのがメインの謎だが、読み進むうちにさらなる謎が出てきてなかなか展開が読めなかった。タンゴステップの謎の答えはまんまといえばまんまだったが、存分に気味の悪い話だった。

 全体として眺めると少々散漫な気がするような? プロローグの逃亡したナチの話とか、無関係ではないけれどなんか変な感じ。もう少し深く話に噛んでくるのかと思っていたのだが。
 ただ、この散漫さは作者が狙ってやったことのような気がしないでもない。現実はそんなに都合良く話が収束するもんでもないですよ、的な。「チャイルド44」の些細な不満として、犯人の正体にそういう設定が必要だったんか? というのを覚えたのを思い出した。あの話は主人公がソ連の体制に散々な目に遭わされるだけで存分に面白いので、そんな設定まで持ち込むのは話ができすぎじゃね? と思ったものである。読み返すと頭の方に伏線が張ってあるんだが。
 ともかく、よかった。数少ないスウェーデン小説であることだし。


「ブライトノミコン」(ロバート・ランキン、創元推理文庫)読了。
 イギリスはブライトンに隠されたブライトン十二宮にまつわる十二の事件を解決する話。
 人に勧めがたい話ではある。でも俺こういうの嫌いじゃないぜ!


「ソラリス」(スタニスワフ・レム、国書刊行会)読了。
 新訳の方。しばらく前に買って放置していたのだが、やっと読了。
 個人的にかなり好きな作品であり、これを完全版で読めるのはまことにありがたい。ハヤカワ版に比べると、ソラリス学の部分がかなり増補されている。たしかにこの部分なら削ってもストーリーに影響はないが、しかしこの作品の魅力を大いに損ねる気がするね。

 それにしても読めば読むほど妙な話だ。「エデン」「砂漠の惑星」と三部作を読んだが、やっぱり一番面白いのはソラリスだ。他二作になくてソラリスにあるもの、と考えると真っ先に「恋愛要素」が思いつく。エデンの謎生物や砂漠の惑星の黒い霧に恋はできないからね。
 とはいえレムが恋愛要素を持ち込みたくてこの話を書いたわけではなさそうで、ソラリスというテーマを突き詰めたら結果的に恋愛要素が入り込んできたという気配が強い。恋愛要素はこの話の本質ではない、と分かってはいるのだが、でもハリーの話には心惹かれずにはおれんのよねー。ま、作者の予期していなかった要素が読者に受ける、ってのはよくあることだよね。

 ホラーとして読んでも存分に面白いので不思議。サルトリウスが自室に子供のようなものを匿っているシーンは何度読んでも印象的だ。あとハリーをロケットで宇宙に放逐したらその後何事もなかったかのように戻ってくるシーンは何度読んでも面白すぎる。
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by crax_alexey | 2009-01-16 19:55 | 読書